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「先生、荷物、持ちましょう!」 授業が終わると直美が担任をしているクラスの李麗麗がいつも駆け寄ってくる。日本語の授業は、絵カードやカセットデッキ、学生に配るプリントなど、授業に持っていく荷物がどうしても多くなる。授業が始まるときは、日直と称する係りの学生が職員室まで先生のために荷物を取りに来てくれるが、帰りは一刻を争って、アルバイトに飛び出していくため、直美の荷物のことなど、だれも気にしてくれない。 そんな中、李だけは、毎回直美の荷物を運んでくれる。李は歌がうまい。少しかすれた声で歌う。体は細くまだ少女のようなあどけなさがあるが、歌うときだけは妙に色っぽい。学期末などみんなでカラオケに行くときなど、日ごろは目立たない彼女が、急にみんなの人気者になるのだ。直美の授業は「聴解」に役立つ事から、歌の練習をよく取り入れる。そのためか、李は特に直美によくなついている。 「ありがとう。」 職員室の入り口でいつものように、李から荷物を受け取ろうとしたとき、李の手の甲に直美の手が触れた。 「あっ!」 直美は驚いて、もう一度、李の手を触った。李の手はあかぎれてざらざらしていた。ところどころ皮膚が裂けて、血がにじんでいる。 「どうしたの?」 直美が聞くと李は真っ赤になった。 「あぁ、何でもありません。アルバイトで皿洗いをするから…。 わたし、昔から冬になるとあかぎれになります。」 「えぇ、李さん、それはだめよーっ!今度わたしがクリーム持って 来てあげるからね 「いえ、先生大丈夫ですから…」 李は手を隠して逃げるように帰っていった。 次の日直美は李にハンドクリームを持って行ってやった。 「先生、いいです。大丈夫です。」 やたらに遠慮する。 「遠慮しないで。わたしも使ったものだから。これ効くのよ。ちょっとつけてみて、ダメだったら返していいからね。ねっ。」 無理やり押し付ける形になって、直美は少し後悔した。でも、今更引くわけにもいかず、李の方も、直美の申し出を無下に断ることもできずに、真っ赤な顔でクリームを受け取ると、逃げるように教室を出て行った。 貧しいとき、つらい時、親切にされるのが一番堪える。親切を受けると余計に惨めになる。自分が貧しいことを、自分がつらいことを、否定してながら生きているのに、他人の親切を受けると、自分の惨めさを認めなくてはならない。そんな李の気持ちを直美が理解できるはずもない。 |
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