| タイトル |
日 時 |
万引き 6
田隈の拳だった。一瞬、目の前がくらっとなり、よろけて転びそうになるのをなんとか踏ん張った。
「おい、俺は今まで、こんな恥ずかしい思いをしたことなんて一度もないぞ…。おまえのせいだ。ま、話は後だ。」
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2007/12/02 13:43 |
万引き 5
李麗麗はずっと下を向いたままじっとしていた。涙がひざの上でそろえた手にぼたぼたと落ちた。
…なんとかしなくっちゃ。なんとか言わなくては。
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2007/11/25 11:45 |
万引き 4
「あなた、ちょっと用があるんです。店に戻ってもらえますか。」
言葉は丁寧だが、ひどく冷たく強い言い方だった。
…もう取り返しがつかない。見つかったんだ。
麗麗は黙ったまま、買い物袋をぎゅっと握り締めて、男に腕をとられたまま、スーパーへと引き返した。男は店の裏口からスーパーの事務所へ麗麗を連れていった。
「ここに座って。」
男の名札には「店長 鈴木」と書いてある。店の事務所にはいくつかテレビカメラがあって、店のあちこちがそれで見えるようになっていた。
「あのね、ポケットに口紅いれたで...
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2007/11/24 09:44 |
万引き 3
…母さんは化粧一つしない人だった。
自分のことなんて、かまう暇がなかったのかもしれない。毎日毎日、麗麗のために働いた。母の女としての大半はそうやって終わった。昔はきれいだったとよく近所のおばさんから聞かされた。麗麗はたった一度だけ、母親が化粧をしたのを見たことがある。それはれ麗麗が瀋陽で一番難しいと言われる、瀋陽第一高中学校に入学したときだった。
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2007/11/23 19:22 |
万引き 2
スーパーの中は人がまばらだった。李麗麗はマニュキアや油とり紙、つけまつげが無造作にぶら下げてある化粧品コーナーの前に立っていた。何かを買おうと思っているのではない。油とり紙を手にとって値段を確かめる。
…294円(消費税込み)、こんな紙切れが中国のお金なら20元、国ならちょっと贅沢な食事ができるよ。
日本に来るとき麗麗は母親に新しい財布を買ってもらった。財布を開けると、5000元入っていた。「日本に行ったら、いろいろとお金がかかるだろう。大事に使いなさい」と母親は麗麗を見ずにそう言った。つら...
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2007/09/24 09:57 |
万引き 1
「先生、荷物、持ちましょう!」
授業が終わると直美が担任をしているクラスの李麗麗がいつも駆け寄ってくる。日本語の授業は、絵カードやカセットデッキ、学生に配るプリントなど、授業に持っていく荷物がどうしても多くなる。授業が始まるときは、日直と称する係りの学生が職員室まで先生のために荷物を取りに来てくれるが、帰りは一刻を争って、アルバイトに飛び出していくため、直美の荷物のことなど、だれも気にしてくれない。
そんな中、李だけは、毎回直美の荷物を運んでくれる。李は歌がうまい。少しかすれた声で歌う。体...
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2007/09/23 10:44 |
情報 2 就学生ビザ
●日本語学校の学生は就学生ビザを取得した者が勉強するところだ。●就学生ビザ?これは留学生ビザとも就労ビザとも違う。半分勉強、半分就労…。働きながら勉強するためのビザ。ビザ期間は最高2年。アルバイトは1日4時間、1週間20時間、と決まっている。これを大きくはみ出した者は違法者となり強制送還される。●日本語学校の学生の多くは学費を自分で稼いでいる。2年目の学費、大学に行くための学費。そのため、違法と知りながら、いくつものアルバイトを掛持ちながら、毎晩、毎朝働いている。しかも、風俗店でのアルバイトは禁...
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2007/09/17 09:33 |
FJL日本語学院 2
佐伯はその日もどって来なかった。後で聞いた話では、学校の近くの病院で検査をしてもらったらしい。医者になんていったのか、誰も聞いていない。
「坂本さん、とにかく『春節の会に趙さんの家に行きました』なんて向こうが聞いてこない限り、自分から言うもんじゃありませんよ。わかった!」
斉藤はピシャリというと、何事もなかったかのように、下を向いて、何か書類を書き始めた。
結局、趙たちは始末書を書かされ、1週間毎日自習室勉強させられる罰を受けた。学校は鯉代として公民館に20万円の罰金を払った。
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2007/09/17 09:17 |
FJL日本語学院 1
日本語学校の月曜日はいつもに増して忙しい。1時間目はホームルーム、聴解の授業、前の週に行ったテストの解説、今週のテスト、その後の授業。午後からは各学年に分かれての担任会。それから、主任の斉藤から今週の連絡事項が言い渡され、各クラスから寄せられた、さまざまな問題、進路指導などについて話し合いがなされる。
午後三時を回ったころやっと一息つく。直美が顔が隠れるくらいの教材や資料を抱えて、職員室に入ってくると、佐伯の横の席の机にその荷物をどさっと置いて、座った。佐伯はいつものように、めがねを鼻まで...
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2007/09/09 11:29 |
春節 15
「先生、やけどしてたから…。」
劉は真っ赤になって弁解した。
「今朝は僕の王華にちょっかい出すし、今度は趙の大好きな坂本先生を横取りかぁ。劉にはみんな用心しろよーっ。」
張岩はもうだいぶ酔っ払っている。
「ええっ、私そんなにもてるのぉ。彼氏現在募集中!よろしくね。あっ、でも学校の先生と学生の恋愛は禁止よーっ。残念でしたーっ!」
「ええっ、そんなぁ。」
今度は王華が口を挟む。
「私、2年3組の榊原先生が大好きなのにぃーっ。」
「ほらほら、王さんがそんなこと言うから、張君が壁...
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2007/09/08 18:51 |
春節 14
「先生、手どうしたんですか。」
いつの間にか劉が直美の横に座って、今朝やけどして赤く斑点状になった直美の手を見ている。
「あっ、これ。今朝コーヒー淹れててね、お湯がかかっちゃって。」
「お湯がかかったんですか。それとも先生が自分でかけたんですか?」
劉は、まじめな顔で聞く。「お湯がかかった」「お湯をかけた」自動詞と他動詞の違いはいつも学生の悩みの種だ。劉は黙って立っていくと趙に、一言二言声をかけ、それから、軟膏を借りてから、直美にところへ戻ってきた。劉はいきなり直美の手をとって
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2007/09/03 19:55 |
春節 13
みんなあきれて佐伯を見た。
それから、次々と料理が出来上がっていく。トン足と野菜の油炒め。春雨と鶏肉の炒り煮。直美のお気に入りは、ジャガイモを縦に千切りにし、スパゲティーのぺペロンチーノ風に、オリーブ油とタカの爪で炒め塩コショウをした料理だ。これをビールのつまみにして、大いに飲んでいると、今度は大皿料理が運ばれてきた。なんと鯉の姿揚げだ。鯉の背に包丁で切れ目を入れて、丸ごと油で一気にあげると、その切れ目が鯉のうろこのようにはねあがる。これに片栗粉でとろみをつけたかけ汁を上から流すと、皿からジュ...
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2007/09/02 10:36 |
春節 12
趙たちが住んでいるアパートは、町の公民館の隣りにあった。2階建てで、1階に5
軒、2階に5軒、右側に鉄製の階段があり、そこを上ると、廊下があり、その廊下に
面してそれぞれの部屋のドアが並んでいる。そのドアの横にはどの部屋も洗濯機を置
いている。部屋が狭くて入りきれないのだろう。洗濯機から出る水は、廊下の脇に作
ってある雨どいの溝にホースで流すようにしてある。
「あーっ、先生。いらっしゃい。過年好!」
趙がドアを開けた。
「先生、遅いネェ。みんな来てるよ。」
「ごめん、ごめ...
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2007/09/01 16:28 |
春節11
さっきお湯がかかったところがヒリヒリする。直美は化粧台の前に座って、じっと自分の顔を覗き込む。
…25歳はお肌の曲がり角?しかしわからん。曲がってどこへ行くんだ?
最近夜更かしをした朝など、何だかデローンとした皮膚になる。
…25歳で角を曲がるとき、悪い道を選んじゃったかな?
直美は、化粧水を手のひらにたっぷりのせると、パンパンパンと頬に叩き込んだ。
「早くしなくっちゃね、結婚!」
鏡の向こうの直美がこちら側の直美に呼びかける。
趙たちが住んでいるアパートは、町の...
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2007/08/26 18:41 |
春節10
「うん、うん。そう、そう。」
突然、隣りの佐伯が鼻までずり落ちてきためがねを右手でせわしくかき上げながら相槌を打った。
「私もこの間、『学校へ行きますと学校に行きますってどう違うんですか』って聞かれたことがあったんですよ。ええっ!どう説明しようかなぁってあせっていたら、昼休みによく話しかけてくる張さんが、『先生、同じですよね』って助け舟出してくれて、『あっ、そうですね。同じです』って答えてその場はセーフ!ほんとあんなとき助かりますよネェ。斉藤主任がおっしゃる『日ごろから学生とコミ...
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2007/08/26 10:01 |
春節9
今日はキャナルシティの“冬物クリアランスセール”に行くつもりだった。前から気に入って買えなかった毛皮のコート(もちろんフェイクだけど…)を買おうと思っていた。
「学生との教室外でのコミュニケーションも、日本語教師としては大事なことよ。」
先週、職員室では隣の席の佐伯と雑談でこの話をしていると、主任の斉藤がピシャリと言い放った。
斉藤は日本語教師暦15年のベテランだ。その前は塾で英語を教えていたそうだ。直美とは経験も知識も格段に違う。
「そうですかーぁ…。斉藤主任は学生から誘われ...
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2007/08/25 10:12 |
春節 8
「劉、鄭はバイトの帰りにそのまま趙の家に行くそうだぞ。さっきメールに書いてあったから。行こう、行こう。正月だろう!」
劉はわざと仕方なさそうに、腰を上げた。坂本先生も来るんだ。“カランコロン、コロン” 先生の声が耳元で鳴った。
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2007/08/22 22:19 |
春節 7
「ネェ、ネェ、小劉、劉が来ないと、餃子の皮を伸ばす人がいなくて困るでしょう!風邪なんか すぐ治るって!行こうよ。」
王華は張と勝手に部屋に上がり込み、コタツに両足を突っ込んだ。張は流しの方へ行ってお湯を沸かしにかかる。
張は劉の家に来るといつもお茶を入れて飲むのを習慣にしている。ジャスミン茶の葉を急須に入れる。沸いたお湯を茶葉の上から注ぐ。すぐに、一度その湯を捨てて、改めて湯を注ぐ。今度はゆっくり茶葉が開くのを待つ。最初に一度注いだ湯を捨てるのは、茶葉についたゴミを取り除くためだとか、殺...
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2007/08/20 19:55 |
春節 6
「小劉、趙の家にもうみんな集まってるんだって。今日は張さんがレンタカーを借りてきたんだ。早く行こうよ。」
王華がまた、からむような声で誘う。
…お前に小劉なんて呼ばれたくないよ。
劉は、あわててズボンをはきながら、思う。
「俺、今日のどが痛いんだ。風邪を引いたのかも。俺は行かん。鄭が帰ってきたら行くよう に言うから。」
「あれ?劉、行かないのかぁ。坂本先生が、がっかりするぞーっ。」
おどけた声で張が言う。
坂本直美は劉のクラス担任だ。30を過ぎたぐらいだ...
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2007/08/19 21:20 |
春節 5
…うるさいなぁ、また鄭が鍵を忘れたのかぁ…。
劉はパンツ一枚で鍵を開け、ドアを思い切り開いた。
「お前、また…。あっ!」
ドアの外に立っていたのは鄭ではなかった。王華と張岩が二人で劉のパンツ姿を笑っている。
「新年快楽!」
王華が甘えた声であいさつした。
「今日、趙の家で新年会をする予定だっただろう?」
クラスメートの張岩は最近、王華とつきあっている。王華は劉と同じ、吉林省ハルピンの出身で、高校のころから知っている。王華の周りにはいつも男友達がいて、特に劉の親友の田猛...
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2007/08/18 23:58 |